左側は、トレーナー歴8年の植松さんと8歳になる介助指導犬ウィリーのベテランコンビ。植松さんは介助犬の育成と共に、アシスタントトレーナーのコーチも担当。パートナーであるウィリーもまた、訓練中の介助犬のお手本となる頼もしい存在です。
中央は、アシスタントトレーナーの鯨井さんと4歳になるカノンのコンビ。「訓練はなかなか難しいです」と漏らす鯨井さんはトレーナー歴3年。やんちゃ盛りのカノンに手を焼いています(笑)。
右側は、アシスタントトレーナーの柳さんと2歳のメリーのコンビ。トレーナー歴2年の柳さんは、メンバー中で最新人。同じくルーキーのメリーと共に、ただいま修行中です。
まずは、介助指導犬ウィリーのお手本から!
生後6ヶ月から訓練をはじめ、2歳でデモンストレーション犬デビューを果たしたウィリーは、6年以上のキャリアをもつベテラン。ウィリーの介助動作をお手本に、他の犬たちも仕事を覚えてゆきます。たとえば、訓練中の犬が興奮して暴れてしまうような時は、目の前でダウンの姿勢を見せることで、興奮を鎮める方法を教えたりもします。
(1)は、介助基礎動作「くわえる、わたす」の応用で、洗濯物を干すための介助。カゴを持ってついてきた後は、中の洗濯物を一つずつ咥えて手元に置いてゆきます。呼吸困難になる、あるいは起きあがれなくなるなど、「かがむ」という行為は、障害者の方にとって想像以上に困難なもの。その動作を介助犬に代わってもらうことは、大きな助けとなるのです。
(2)は、外出のための介助。外に出るときは必ず、一目で介助犬とわかるものを身につけます。車いすの脇について落ち着いて歩く、指示があるまではダウンして待つなどは屋外訓練の基本。訪問先では、建物を傷つけないよう、鼻先でチャイムを鳴らし、ドアの開け閉めも鼻先で行います。
(3)は、外出時あるいは帰宅後の介助。コートや手袋を脱がせる手伝いをします。車いすを使う方の場合は車輪を回すので手袋は必需品。マジックテープをはずし、指先をくわえてひっぱり、手袋を脱がせます。上着は、袖口を片方ずつくわえてひっぱり、腕を抜く手伝いをします。
ウィリーのように訓練を積んだ介助犬の場合、ベッドから起きあがるための支えとなる介助、車いすを手元まで持ってきて乗り移るための介助、ズボンの裾をくわえて足を車いすのステップに載せる介助なども行います。
遊ぶの大好き!やんちゃ盛りのカノン。
次は訓練段階のカノン。現在は、携帯が鳴ったら持ってくる、バックと帽子を区別して持ってくるなど、「くわえる、持ってくる」の動作に、選別する動作を加えた訓練、ペットボトルのフタやお菓子の袋をあけるなど、指先の介助となる動作の訓練などをしています。ユーザーの方は、指先が効かない場合がとても多いため、このような介助を行えることが重要なのです。
(4)は指先介助の動作のひとつ。お菓子の袋の端をかんでひっぱり切り口をつくる、割り箸の片側をくわえてひっぱる、ペットボトルのフタをゆるめるなどの介助をします。また、おにぎりのフィルムをはがすことも出来ます。 次は、バックや帽子を間違えることなく持ってくる訓練。
ところがカノン、たくさんの人に見つめられて、(5)のように気が散ってしまいがち。普段は簡単にできる動作であっても、こうした大勢の人前で行うのは大変難しいことなのだそう。人混みでもスムーズに介助動作をするようになるには、犬の注意を常に自分自身に向けるよう、ユーザー自身が根気よく訓練に取り組まねばなりません。
この時、トレーナーの鯨井さんは訓練の途中に遊びを取り入れて、カノンの集中力を取り戻す工夫をしました。(6)では、集中力を取り戻したカノンが、バックを見つけてくわえようとしています。
このように、犬が上手に出来ない場合も、怒ったり、たたいたりすることはありません。あくまで犬自身が自主的にやるようにし向けるのが大切なのです。
何事にも興味津々!ただいま特訓中のメリー。
2歳の女の子のメリーは、3頭のなかで一番の新人。現在は車いすの段差介助、床に落ちたものを拾い上げて手元におく介助、バックなどをくわえて運びながら付いてくる訓練などをしています。なかでも、落ちたものを拾う、という動作は、肢体不自由者の方が絶対に必要とする動作。介助動作の訓練では、基本中の基本なのだそう。
まずはメリーがトレーナーの柳さんに注目するよう、車いすについて歩く練習から。次に、車いすが段差を超えられるよう、結い付けてあるヒモをくわえて引っぱる訓練に入ります。ところが、まだ若いメリーは何にでも興味津々。大きな毛玉のような撮影用の集音マイクが気になって仕方がありません(笑)。一生懸命、メリーを呼び寄せる柳さんも苦笑い。ようやく集中力を取り戻し、「メリー、プル(引く)して!頑張れ!」と指示する柳さんの声にこたえ、車いすのヒモをくわえて力強く引っぱり、見事に段差を乗り越えました。
(7)は、床に落としたクレジットカードを、メリーがくわえて手元に戻す訓練。小さくて平たいカードを、なんとか床からくわえ上げるものの、途中何度も落としまいますが、ようやく柳さんの手元に届けます。
(8)は、指示されたものをくわえて、運びながら付いてくる動作。最初はうまく持ち上げられませんが、ついにバックの持ち手を上手にくわえ、車いすについて運ぶことができました。このような難しい訓練を、トレーナーではなく、ユーザーの方自身が行う必要があるのです。
もし、街で介助犬をみかけたら?
このように、肢体不自由者の方の手となり足となるため、介助犬は一生懸命に訓練を積んでいます。そういう姿を街中でみかけたとしたら、つい撫でてしまいそうですが…
「介助犬はペットじゃない、彼らは使命を持って働いていることを忘れないでください。いまユーザーさんが自分に何を求めているのか、常に集中していないといけない。可愛いからと、突然撫でられたりすると、その集中力が切れてしまうんです。彼らにとっては仕事中ですから、意味もなく触られるとストレスにさえなるんです。たとえば犬同士の場合でも、余所の犬が仕事中にじゃれついてきたりすると、ムッとしたりしたりもしますよ(笑)。介助犬は、それほどまでに、自分の仕事への意識と使命を認識しているのです」そう語るのはトレーナーの植松さん。
皆さまもぜひ、介助犬を街でみかけた時は、そっと彼らの仕事ぶりを見守り心の中で応援してあげてください。